業務用素材向けに花火大会へ撮影に出向いた時のこと。
同じようにカメラを備えて待っている人達が大勢居て、仲間内で機材談義をする話し声が聞こえてきた。
カメラからその他の機材まで良いものでなければね、という内容だった。

それを聞いて反発心のようなものが芽生え、偶然一緒に持ってきていたコンパクト・デジタルカメラでの撮影に変更することにした。
最も遅く設定できるシャッター速度は4秒まで。これ以上長くはシャッターを開けておくことは出来ない。
一発二発三発と打ち上がる毎、4秒間に想いを込めた。

その後しばらく未公表のまま過ぎた頃、イタリアの「A' Design Award ＆ Competiton 2016-2017」というコンペへのお誘いを受けた。
1作品申請に対し5カットまでの登録であったため、15カットある中から5カットを選出し挑戦したところ、銀賞を拝受。
審査のためのプレゼンテーションには、下記のような説明を記した。

“日本の花火は、夜空にきらめく一瞬の美しさがある。
この一瞬のために、職人が丹誠込めて作り上げた花火。
打ち上げられる日によって、風に吹かれ、二度と同じ形では咲くことがない。
まさに、花の命と同じである。
写真家は一瞬を捉える技術者であり、花火もまた一瞬だけ咲く芸術品。
夜空をキャンバスに、瞬間と瞬間が対立して融合し、
二度と同じ様に描かれることのないのが本作だ。” と。